【指名打者(DH)とは】なぜパリーグだけが採用しているの?
2023年のWBC優勝や、メジャーリーグ大谷翔平選手の活躍もあり、世間の野球への関心が高まりつつあります。
野球をやったことが無いかたもテレビやネット、現地で試合観戦をする機会が増えたかと思いますが、観戦中に「指名打者(DH)」という言葉を耳にしませんか。
大谷翔平選手に関するニュースでも「本日も大谷選手は1番DHで出場。」と報道されますが、この「DH」とは何かをご存知でしょうか。
指名打者(DH)制度とは、野球において投手の打撃を専門の打者が代わりに行う制度で、メジャーリーグでは、2021年からアメリカン・リーグ、ナショナル・リーグの両リーグで、日本ではパシフィックリーグ(パリーグ)でのみ採用されており、セントラルリーグ(セリーグ)では採用されていません。
この記事では、野球経験歴25年以上のあかねが指名打者(DH)制度とは、日本でパリーグのみに採用された歴史と理由、指名打者制度を採用することによるメリットについて紹介します。
- 大谷翔平選手のニュースでよく聞く「DH」とは何かを知りたい
- パリーグだけが指名打者(DH)制度を採用している理由が知りたい
- 指名打者制度を採用することのメリットを知りたい
指名打者(DH)制度とは
指名打者(DH)制度とは、英語で「Designated Hitter」と記され、野球において投手の打撃を専門の打者が代わりに行う制度です。
通常、野球の攻撃はピッチャー、キャッチャー、内野手4人、外野手3人の9人が事前に決められた順番(打順)に打撃を行いますが、この制度が適用される場合はピッチャーの代わりに指名打者(DH)が打席に立って打撃を行います。そのため、ピッチャーは打撃を行わないこととなります。
日本プロ野球での指名打者(DH)制採用の歴史
日本のプロ野球では1975年からパリーグのみが指名打者(DH)制度を採用しています。
これは1973年にMLBのアメリカンリーグ採用したことに影響を受けたものです。一方セリーグでは、伝統的な野球スタイルを維持するという声が多かったことから、DH制の採用を見送りました。
なぜパリーグだけ?指名打者(DH)制採用の背景と理由
では、なぜパリーグだけが指名打者(DH)制度を取り入れたのでしょうか。
それは当時のパリーグが抱える課題を解決できる可能性があったからです。
その課題とは、「入場者数を増やす」。
今では、「人気のセリーグ」、「実力のパリーグ」と言われていますが、日本野球機構によると1974年当時の入場数はセリーグが7,595,200人に対し、パリーグは3,501,300人とパリーグの人気は大変低迷していました。「投稿打低」のアメリカンリーグが指名打者の採用で成功したことを受け、パリーグも指名打者(DH)制度を採用することにより、各チームが今までよりもより多くの得点が期待できるため、試合の魅力が増し、観客動員数の増加につながると考えたのでしょう。
球団 | 入場者数 | 1試合平均 |
---|---|---|
セリーグ | 7,595,200人 | 19,475人 |
パリーグ | 3,501,300人 | 9,000人 |
指名打者採用によるメリット
そのほかにも指名打者(DH)を採用することにより、以下のようなメリットがあります。
チームの打撃力が上がる
投手は投球に専念することから、打席に立っても積極的に打つことが少なく、出塁する可能性がが低いため、DHを採用することで攻撃力を高めることができます。
選手のキャリア延長
年齢を重ね、体力等に衰えが見えるベテランの場合、9イニング守備につくだけでも大きな負担となります。その場合、指名打者(DH)制度があれば、守備に使っていた体力を温存して打撃に集中することができ、息長く活躍することが可能です。
年齢とともに守備力が低下した選手でも、指名打者(DH)として活躍の場を得ることができます。
2024年の大谷翔平選手は、右肘の怪我で投手としての出場が1年間できませんでしたが、指名打者として出場。打撃に専念できたことからMLB史上初の「50本塁打・50盗塁(50−50)」を記録し、こちらも史上初となる指名打者選手によるMVPを受賞しました。
投手の保護
指名打者(DH)制度には投手をケガから守るというメリットもあります。
セリーグの試合を見ていると、投球に専念することから、体力を温存するためバットを振らない選手も多くいます。
また、打った後の急なダッシュによる肉離れや走者として出塁するとどうしてもスライディングをする場面や、交錯プレーの可能性もあることから、指名打者(DH)を採用することで、投手のケガのリスクを回避することができます。
なぜセリーグは指名打者(DH)制度を採用しないのか
パリーグが指名打者(DH)を採用した理由やメリットを見てみると、良いことばかりな気がしますが、なぜセリーグは指名打者(DH)制度を採用しないのでしょうか。
それには以下の点が理由だと考えられます。
伝統を重視しているため
セリーグが採用しない理由としてあげられるのは「伝統を重視している」ということです。
野球は「守備につく9人がそのまま打撃を行う」ということがこれまでの長い歴史の中では不変のルールでした。
プロ野球発足当初から名を連ねる読売ジャイアンツや阪神タイガースなど伝統あるチームが多いセリーグでは、野球に対する考え方も伝統に重きを置いているのではないでしょうか。
戦略の複雑さを維持するため
指名打者(DH)制度を採用しない場合、打撃戦は減少しますが、より緻密な野球を味わえる試合が増えます。
投手が打席に立つことから、守備側はピッチャーのところでアウトを1つ稼げると考えるでしょう。
しかし、チャンスの場面や打席に立つ投手の投球数が多い場合、代打(試合に出ている人に代わって打席に立つ選手)が登場することもあります。
そのため、守備側は「次の投手の打順で代打の可能性があるから前の打者で勝負しよう」と考えたり、攻撃側は「打席に立つ投手の投球数はまだ少ないから、もう1イニング投げさせるか。それともこのチャンスの場面で代打を出して得点を取ることを優先するか」と考えたりと、両チームが駆け引きする場面が多くなります。
野球の経験者や野球観戦を頻繁にする人にとってはこのような駆け引きがある試合を見ることが好きな人も少なくないでしょう。
総合力が必要な投手が現れるため
投手も打席に立つ機会が多いことから、投手力のほかにも少なからず打撃力・走塁力が求められます。
元ジャイアンツの桑田投手や現メジャーリーガーの前田健太投手も打撃力があり、打席に立つとヒットを期待する野球ファンも多かったのではないでしょうか。
他にも皆さんがご存知であるメジャーリーガーの大谷翔平選手は「二刀流」として知られており、投手としてだけではなく、打撃力、走塁力もずば抜けて高い選手です。
大谷翔平選手は指名打者(DH)を採用しているパリーグに属していましたが、入団した日本ハムファイターズが大谷選手の二刀流に理解を示し、DHを解除して投手・大谷選手を打席に立たせる起用も行いました。
予想だにできないドラマが起こるため
余談ですが指名打者(DH)制度を採用していなかったことにより起こったドラマがあります。
それは「工藤公康投手の200勝達成試合のホームラン」です。
2004年8月17日のジャイアンツ対ヤクルト戦。先発は通算200勝に王手をかけた工藤投手。
試合はヤクルトが岩村選手、志田選手、ジャイアンツがペタジーニ選手にホームランが出て、2対2の同点でした。
7回裏、2死2塁で工藤投手に打席が回ります。
200勝が決まるかもしれない試合でしたが、本来であれば、「先発投手として、7イニング投げている。試合は終盤で同点。2死ながらランナー2塁のチャンス」ということから代打を投入するのがセオリーです。
しかし、工藤投手はそのまま打席へ。
結果、3ボール1ストライクからの5球目を打ち、2ランホームラン。
これが工藤投手にとってプロ野球での初ホームランであり、
そのまま工藤投手は8、9回も投げ抜き、4−2で完投勝利。見事200勝を達成するのでした。
当時、小学生だった私はたまたま現地で観戦しており、工藤投手によるホームラン、喜びから飛び跳ねながらダイヤモンドを一周する工藤投手のことを今でも鮮明に覚えています。
指名打者(DH)制度が採用されていたらこのような野球ファンの心に残るようなドラマは生まれていなかったのではないでしょうか。
まとめ
今回はプロ野球の指名打者(DH)制度の有無について調べてみました。
採用した経緯が「不人気の解消」ということがとても意外でしたね。
採用当時は人気が低かったというパリーグですが、2023年の入場者数を比べるとセリーグの14,119,723人に対し、パリーグは10,950,446人で、その差は縮まっていることから、指名打者(DH)制度の採用は成功したと言えるのではないでしょうか。
MLBでは、2021年からナショナルリーグでも指名打者(DH)制度の採用が決まり、国際大会でも同制度が適用されることから、今後もセリーグの指名打者(DH)制度採用に関する議論は続くことでしょう。
野球大好きなあかねとしては、野球をあまり知らない友人と試合観戦をする場合は、点数がたくさん入ったほうが盛り上がるため「指名打者(DH)あり」。野球の知識があり、戦術を予想しながら観戦をする場合は「指名打者(DH)なし」。ですかね^^;。
結論!「指名打者(DH)制度があってもなくても野球大好き!」(*^○^*)